半年前、僕には初めての彼女ができた。
夜の23時。乗る予定の電車が来るまでのわずか10分間を、今でも鮮明に覚えている。心臓は喉元で暴れ、震える声で勇気を振り絞った。「付き合ってください」。返事は、拍子抜けするほどあっさりとした「いいですよ~」だった。嬉しさもあったけれど、本当にこれで僕たちは恋人になるのだろうか? 実感は全く湧かなかった。
その日が終わると、翌朝、スマホに届いたたった「おはよう」の一言。ただそれだけで、世界が色を変えた気がした。大好きな人からの言葉は、こんなにも僕を幸せにできるのかと驚いた。
それから僕たちは、毎日のように話し、何回かデートを重ねた。だが、当時の僕は今思うと未熟すぎた。情けないことに、手を繋ぐことすら躊躇していた。もっと彼女に触れるべきだったと、後悔している。
付き合って一か月ほどが過ぎた頃、彼女は忙しくなり、僕たちは会えなくなってしまった。連絡の頻度も下がり、一日一通くれば良い方になった。
それなのに、SNSは毎日のようにあがっていた。なぜ僕のLINEはいつも後回しなんだろう? 彼女は「余裕がない」と言ってくれたけれど、僕にはその言葉が「俺への気持ちがない」としか翻訳できなかった。もっと自分の状況を教えてほしかった。
その状況がおよそ3ヶ月続いた。連絡もない。会えない。本当に付き合っているのだろうかという不安が、毎日僕の心を蝕んでいた。
我慢の限界が近づいた頃、また「連絡遅くなる」といった旨のLINEが届いた。そこには、「ごめん」の一言もなかった。気遣いを全く感じなかった。
僕が欲しかったのは、彼女からの優しさや時間だったけれど、あの時ばかりはただの一言の「ごめん」だった。それが、この不安と戦うための唯一の心の燃料だったのに。
溜まりに溜まった不満は、ついに爆発した。彼女に対し、「俺のことどう思ってるのか」といった、重い内容のLINEを送ってしまった。
それを境に、僕のLINEに既読がつくことは二度となかった。彼女が他のSNSを更新しているのは知っていたから、それが意図的な未読無視だと理解した。
それから一か月半、僕はただ待ち続けた。このまま待ち続けても意味があるのだろうか。僕だけが相手を想って、馬鹿馬鹿しい。
もう限界だった。この関係性を終わらせてもいいだろうと決心し、別れの連絡を入れた。最後ぐらい既読がつくかな、と小さな希望を持ったが、それもまた夢のまた夢。もう無理なんだと悟り、僕は自ら全てのSNSを切った。それは、未練という最後の鎖を、自ら断ち切った瞬間だった。
彼女と一緒にいることができた時間は、本当に短かった。けれど、僕にとってはかけがえのない、とても幸せな時間だった。
別れてからもう2ヶ月が経つのに、未だに彼女のことを思い出してしまう。忘れたいわけではないが、思い出したくもない。このジレンマから、いつになれば抜け出せるのだろうか。初めての彼女だったから、こんなにも執着してしまうのだろうか。
「人は出会うべきタイミングで出会い、別れるべきタイミングで別れる」。そうは言うけれど、人生は本当に難しい。
答えはまだ見つからない。でも、この初めての痛みは、必ず次の恋愛で、誰かを大切にするための強さに変わると信じている。僕の初めての恋は、僕を確かに大人にしたのだから。